2012年の改正法と、施設介護への影響。


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2012年(平成24年)4月施行、改正介護保険法のポイント。で概要を説明した介護保険の2012年改正点を、施設介護在宅介護の関係を踏まえて見ると、いくつかの問題点が浮かび上がってきます。


団塊世代の高齢化に伴う、2025年からの要介護者の激増に備えるための第一歩として、国は今回の改正で「地域包括ケアシステムの実現」を強く打ち出しています。

しかし、この「地域包括ケアシステム」を運用する主役として「市町村」や「地域包括支援センター」を前面に押し出すその一方で、肝心の国の姿がよく見えなくなっている点が気がかりです。


「地域包括ケアシステム」で念頭に置かれているのは、「地域のパワーを有機的に連動させることによる、在宅介護力の強化」です。

しかし、特養の待機者が一向に減る兆しがないことからもわかるとおり、家族構成や仕事の都合、あるいは在宅介護の負担に耐えかね、施設介護を強く求める人の数は増加の一途です。

このような施設介護の充実を求める人たちの声が今回の改正でどこまで反映されているかを考えたとき、対策としては弱いという印象が否めません。


これはもちろん、国の介護財政・財源の問題にも、密接に絡んでいます。

今回の改正では、財政安定化基金の取り崩しを明記した以外、財源の問題にほとんど踏み込んでいないという批判があります。

在宅介護よりも一般にコストがかかるとされる施設介護の強化のための施策は、今後の要介護者の増加を展望した場合、国としても二の足を踏まざるを得ない…ということなのでしょう。

「地域の介護事情は地域が一番わかる、地域で支えあうのが一番」的なお題目のもと、「在宅介護の充実」「市区町村の権限強化」へと、急いで舵を切ろうとしているようにも見えますね。


また新サービスが今後普及し、市町村の役割が大きくなるにつれ、利用者に対する最終的な責任はいったい誰が持つのか?という「責任主体の所在」の問題が出てくる局面も、あるかもしれません。

万一市町村の独自事業に起因する問題が生じたとき、国が「自治体で決めてやったことだから」としてはっきりした責任をとらない態度に出てくることも、考えられないことではありません。


一口に「地域」といっても、市町村・地域包括支援センター・事業所・NPO・医療機関・民間サービス企業・ボランティアなど、さまざまな主体が一体となった有機的な活動体を「地域」と呼んでいるのが、実際のところでしょう。

いざ大きな問題が起きた時、責任の所在がもっともあいまいになりやすいのも、また「地域」なのではないでしょうか。

「地域の責任」といっても、システムの権限と責任範囲をある程度誰が見ても明確なものにしない限り、曖昧に収れんされたり、たらい回しにされる可能性も否定できないでしょう。

「地域でケアする=地域で責任を持つ、すなわち国は責任解除される」という論理のすり替えになってはいけません。

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市町村も今後予算や体制を強化していくはずですが、新しいサービスを展開するなかで、予期せぬ問題にいくつも直面することは容易に想定されます。

想定にもとづく十分な訓練をした上で新サービスに備えてきたという市町村は、果たして全国にどれだけあるのでしょうか。

国・都道府県・事業者間との調整を含め、現在の全国の市町村は、法が期待するようなリーダーシップを発揮していくことができるのでしょうか。


たとえば、地域密着型サービスの一メニューとして登場した「定期巡回・随時対応サービス」ですが、在宅介護サービスの利用者にとって24時間365日対応するという仕組みそのものは大いに助かる、歓迎すべき内容であることに、そう異論はないでしょう。

しかし特に地方においては、サービス開始前からすでに「移動距離の長さや人員を考えると、採算上は対応が難しい」とする事業者の声も、ちらほら聞かれるところです。


事業者の経営採算面からすれば、小規模多機能型サービスの提供事業所に利用者を集約させて、効率良くサービス展開をしたいのが本音でしょう。

都市圏はともかく地方に生活していて、周囲には特養もない、施設まで車で数十分かかるといった地方圏の在住者は、新サービス導入の恩恵を受けられない可能性も高いのです。


市区町村の判断と決定権限が大きくなるということは、それだけ自治体ごとの介護サービスの格差も広がりやすいということを意味します。

試算の結果、運営が厳しいと判断した市町村は、意図的に新サービスの導入を控えるかもしれません。

総合型サービス」もそうですが、既存の介護施設のメニューに組み入れることを前提に設計したサービスについては、介護施設の絶対数が乏しい地方では、新サービスのスタート時点から大きなハンディキャップを抱えていることになります。

そうなると都心部と地方の自治体間で、これまで以上の介護サービス格差が生じる可能性もあります。

【2013年5月追記】 

厚生労働省が発表した調査結果によれば、サービス開始から1年が経過した2013年(平成25年)3月末現在における「定期巡回・随時対応サービス」の全国の実施状況は、実施している自治体が210・事業所数は232・利用者数は2,083人と、増加傾向にはあるものの1事業所の指定しかない県も相当数ある等、まだまだ広がりに乏しい現状となっています。

【PDF】定期巡回・随時対応サービスの事業所数(平成25年3月末)(厚生労働省)


今日の在宅介護においては、介護する側の高齢化・家庭内の介護者不足・介護のための退職や失業による収入の不安定化などに加え、認認介護や介護虐待などの問題もクローズアップされています。

特養の待機者数が40万人を超える現状は、施設介護に対する切実なニーズを、在宅介護サービスのレベルアップで解消していくのがいかに困難かを示しています。

そのなかで「高齢者は住み慣れた家で在宅介護を受けるのが一番」的な一方向に、国が政策的な誘導をはかっていくことは、大いに問題があると言えるでしょう。


いまの日本では、施設を利用したくともそもそも近隣に介護施設が無かったり、あるいは経済的に施設介護が無理なため、しかたなく「家族」というもっとも人件コストのかからない在宅介護で対応している家庭が大半を占めているはずです。

「施設介護が国にとって(在宅介護より)高コストだから」ということで組み立てたはずの「在宅介護重視の施策」が、施設介護の利用希望者のニーズを汲み取れず、回りまわって在宅介護者の負担を増すという皮肉な結果につながる可能性も捨てきれません。


過度に在宅介護にかたよることなく、施設介護を充実させる政策を並行的に強めながら、利用者がその必要に応じて、施設介護と在宅介護のどちらでも選ぶことができる機会そのものをもっと増やしていく必要があるのではないでしょうか。

【2015年5月追記】 

2015年(平成27年)の改正介護保険法および介護施設への影響については、介護施設に関わる、介護報酬改定(2015年)のポイント。 をご参照下さい。)


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