介護施設の種類で違ってくる「住み替え」。
介護施設への入所は本人にとっても家族にとっても多くの時間とエネルギーを費やすイベントであり、入所が果たせた後ホッとしてしまい、その後のことなど考えたくもない…という気持ちになるのは、ある意味で無理からぬことです。
しかし病院退院後に、介護施設を替わらざるを得ない場合とは。 で述べたケースのような「本人が病院に入院→退院後に介護施設へ」という状況は家族にとって想定の範囲に収まるにせよ、「要介護度の不可逆的悪化による、介護施設間の移り替え・住み替え」までは気が回らない(あるいは考えたくない)というのが、正直なところではないでしょうか。
通常、自宅(病院)を出て最初に住む介護施設が、本人のその後の「永久の住み家」を意味するわけではありません。
持病の悪化や突発的な事故・発病により、別の病院における再びの入院治療や、リハビリ施設への転院及び数ヶ月に渡るリハビリ、あるいは希望する介護保険施設への入居待ちのため短期間老人保健施設や高齢者住宅に身を寄せる等、短期~数年の間に介護施設をいくつも替わることは、今日的な介護の日常となっています。
介護施設の種類によっても事情は異なりますが、どの施設であろうとも、一般に入居の競争率が高く、入居の順番待ちに長い日月を要することだけはほぼ共通しています。
地方においては、さらに「介護施設の絶対数そのものが少ない」という問題も加わるでしょう。
介護保険施設は要介護度などによる入所要件が規定されているために希望が叶わないことが多いこと、そして有料老人ホームやそれ以外の施設では(公的施設に比し)高額な入居費用が、住み替えにおいてもネックになります。
老人保健施設は「特養への入居待ちのつなぎ」としての入所を希望する人が後を絶ちませんが、特に都市部においては、その理由による短期入所が拒絶されることも少なくないようです。
持病を有する方の場合、診療報酬が「包括払い(入院料+薬代その他込みこみの定額、いわゆる「マルメ」)」のため、高額な薬を常用していたりすると施設側費用の持ち出しを避けるために、老人保健施設への入所が認められないケースもあります。
主に認知症の人を対象とするグループホームは、施設内に医療機能が無いこと、また施設が他用途の家屋などの再利用物件であることも多いために、身体的に障害のある高齢者の入居が難しい場合があります。
急速に拡大中の「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、入居費用は介護付有料老人ホーム等に比しリーズナブルなものの、要介護度が2程度までの比較的健常な高齢者を対象としており、認知症の進行など要介護度の悪化によって、退去を余儀なくされるケースがあります。
現状、本人の看取りまで対応してくれるサ高住の数は、全国的にそう多くありません。
このように、本人の病状・要介護度の悪化という時間軸を踏まえて考えると、介護施設の住み替えを試みたくとも様々な背景事情から難しく、入居を断られてしまうケースが出てくることは、十分起こりうるうることなのです。
緊急避難的に自宅に戻し、在宅介護で対応して、施設の空きに備えられるならばまだしも、家族や仕事の都合で無理なケースは珍しくないでしょう。
これらの問題は施設側に一義的な責任があるケースもありますが、施設を非難しても仕方がないことも少なくありませんし、解決に時間と費用を要し、その間に本人を置き去りにしてしまっては本末転倒です。
施設介護と在宅介護のいわば断層に発生する問題については、家族が細かく配慮し先回りして、打てる手を打つ以外にありません。
特に見落としがちなのは、住み替える介護施設(間)、あるいは自宅と介護施設との間に横たわる「物理的な距離」です。
そもそも住み替え自体が一大作業であり、まして体力が年々衰えてくる要介護状態の本人の体力を考えれば、「介護施設の住み替え」はできるだけ本人と家族に体力・余力のあるうちに、最低限度の移動距離とエネルギー消費で済ませたいところです。
遠距離介護で対応していた場合は、さらに大変になります。ケアマネジャーの手を借りるにせよ、施設の選択作業と入所手続のために地元と住居の往復にかかる時間及びエネルギーが、上乗せされるためです。
マンションの2階以上を高齢者向けの居住用居室、1階にデイサービス事業所を併設するタイプの介護施設ならば、物理的な距離の移動が最小限で済むため、検討してみる価値があるでしょう。
また体力が衰えてくる先々も考え、医療機関・ショッピング施設・公共施設などが最小限の移動距離にあり、生活上の諸用が足せる介護施設は、早い段階からある程度リストアップしておきたいものです。
種類別にみる高齢者の住まいと、入居者の輪郭。
介護施設、「何をいつ、どう探すか」という問題への対処方針。でも述べましたが、本人の現在の状態を発想のスタート地点に置き、「もし先々に本人の健康状態(あるいは要介護度)が悪化した場合にどうなるか、どうするか」というシミュレーションを頭の中で行ない、関連する情報を集めておくだけでも、その後の様々な負担が大きく軽減されるはずです。
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