介護保険施設(3)〔介護療養型医療施設〕。
「介護療養型医療施設」とは、介護と医療の両方を必要とする高齢者が長期療養のために入所する、介護保険の適用される施設です。
病院・医院等の一角に設けられていることが多く、一見すると病院そのものに見えます。
医学的管理と看護のもとで、入所者が自宅等へ復帰できるよう、介護はもちろん日常生活の世話やリハビリなどを行ない、できる限り自立した生活を営んでいけるように配慮されています。
具体的には、病状が安定期にあり、医学的管理のもとで長期間にわたる療養や介護が必要な、要介護1以上の人が入所できます。
かつて65歳以上の高齢者が一定割合入院する病院は「老人病院」と呼ばれていましたが、介護保険成立後は「療養型病床群(現在の「療養病床」)」に含めて分類されることになりました。
「療養病床」は、「医療保険が適用される病床」と「介護保険が適用される病床」に分けられています。
前者が「医療保険型療養病床(医療療養病床)」、後者が「介護療養型医療施設(介護療養病床)」となります。
「療養病床」は医療施設として、機能訓練室や談話室、食堂、浴室などの設備を備えつけなければならないことになっており、また面積も一般病棟よりも広く設けるよう義務づけられています。
(なお、療養病床のほとんどは相部屋となっており、一見したところ、ごく普通の一般病院の入院施設といった風です。)
施設の利用料は、要介護度や職員の配置人数などによっても異なりますが、医療の必要性が高いこともあり、特養や老健に比べると、利用料はもっとも高く設定されています。
機能の似た両病床が並存する理由として、医療側が療養病床のすべてを介護療養型に移行することに反対したため、両方にまたがる形として残ったという説があるようです。
介護報酬が低いなどの理由から、医療側が積極的に動いてこなかったという背景もありますが、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」は、以下の理由により一貫した減少傾向にあります。
かねてから、現実には医療や看護をほとんど必要としない入所者が約半数を占めているとして給付費の無駄が指摘されたこと、そして「介護療養型医療施設(介護療養病床)」が「医療保険型療養病床(医療療養病床)」と機能が似ていることなどが、指摘されていました。
(ちなみに、「介護療養型医療施設」と「医療保険型療養病床」のどちらに患者が入院するかについては、病院側の判断で行われています。)
医療の提供がほとんど必要ない人や、看護師の定時観察だけですむ人の割合が、療養病床・老人性痴呆疾患療養病棟とも、それぞれ5割前後に達するという利用者の実態調査結果もあったそうです。
このような患者の入院形態は「社会的入院」と呼ばれていますが、医療費の高騰につながる主犯として、厚生労働省はこの「社会的入院の解消」を三十年来の悲願としてきました。
そのため厚生労働省により、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」は2011年度末(2012年3月末)ですべて廃止する方針が示されていました(廃止される既存の施設は、2008年5月に新たに発足した「介護療養型老人保健施設(新型老健)」を中核に、他の介護施設への転換等を促していく予定でした)。
その後療養病床の廃止・転換はある程度は進んだものの、国の当初の想定には至らず、2016年3月現在で「療養病床」は全国にいまだ約33.9万床が存在します。内訳は「介護療養型医療施設(介護療養病床)」が約5.9万床、「医療保険型療養病床(医療療養病床)」が約28万床となっています。
【追記1(過去の施策)】
介護療養病床の廃止は、2011年度末(2012年3月末)を期限としての他施設への転換が間に合わないとして、廃止計画が2017年度末(2018年3月末)まで猶予されました。
また2012年4月からは、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」の新設は認められなくなりました。
【追記2(過去の施策)】
2015年の介護報酬改定において、「医療ニーズの高い入所者」への対応を強化した「療養機能強化型」の介護療養型医療施設が、新たに誕生しました。
介護療養型医療施設(介護療養病床)の廃止を謳う一方、重度者に手厚い医療を施すために新タイプの介護療養型を設ける必要もあるとして、(部外者にとってはわかりにくい話ですが)国はこれを矛盾しないと考えたようです。
【追記3(過去の施策)】
2016年1月、厚生労働省の有識者検討会は医療療養病床・介護療養病床のうち約14万床を2017年度末(2018年3月末)まで廃止した上で、医師・看護師らが24時間常駐する「医療内包型」および病院・診療所を併設する「医療外付型」の2種類の施設を新たに設置する案をまとめました。
大きな方向として「介護療養型医療施設(介護療養病床)」は予定どおり全廃し、「医療保険型療養病床(医療療養病床)」は医療体制の整った新施設を追加して選択肢を増やし、引き続き病院側に転換を促す狙いがあったようです。
病院に長い間入院し続ける「社会的入院」を減らすべく、療養病床に他の介護施設への転換を促してきたにもかかわらず、これまでなかなか進まなかったことが背景にあります。
また医療体制が現状よりも劣る介護施設に転換することで入院中の患者に不安を与えることや、経営の悪化を懸念する病院もありました。
医療体制の整った新たな施設を創ることによって病院・患者の受け皿を増やし、転換をもっとスピードアップしたいという国の思惑が伺えます。
【追記4】
上記(追記3)の流れを受け、2017年5月に一括法として成立した「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」の中の「改正介護保険法」に基づき、「介護医療院」が誕生することとなりました。
(平成29年(2017年)の介護保険改正(2)~ 「総報酬割」導入・「介護医療院」新設 もご参照ください。)
「介護医療院」の基本的な性格は「要介護者の長期療養のための医療および日常生活上の世話(介護)を、一体的に提供する施設」となります。
新たな「介護保険施設」として、介護保険の「施設サービス」に加わることになります。 ただし医療も提供する「医療提供施設」でもあるので、今般一括法として同時改正された「医療法」にも位置づけられています。
この「介護医療院」は、全国で約5万9千床(2016年3月現在)が残る「介護療養病床」の主な転換先として位置づけられています。
2018年3月末で全廃する予定で話が進められてきた「介護療養病床」ですが、今回の改正では(介護療養病床から介護医療院への)移行期間も考慮し、介護療養病床の廃止・転換期限を、2018年3月末からさらに「6年間延長」することになりました。
介護医療院に入居できる利用者の要件や、施設基準等の詳細は、これから社会保障審議会・介護給付費分科会で議論される予定です。
「介護医療院」は、現状から察する限り「病院の中で、リハビリ等も行いながら日々の(要介護)生活を営める施設」というイメージになります。
利用者や家族にとっては、病院内で暮らせるということで安心感も得られやすい、ある意味これまでの療養病床をしのぐ、魅力的な介護施設となる可能性も高そうです。
国がこれまで介護療養病床の転換先として進めてきた「新型老健」等とのすみ分けは、どうなるのでしょうか。これまで国の方針に沿って新型老健や一般病棟に転換した事業者や医療機関は、あるいは梯子を外されたような気分かもしれません。
また民間の介護付有料老人ホーム等、将来的に競合関係となりそうな他の介護施設とは、地域包括ケア推進の観点から、全体としてどうバランスをとっていくのでしょうか。
これからはじまる議論の進展を、見守る必要があるでしょう。
厚生労働省が他の介護施設への転換を推進する方針を打ち出した後、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」を退所した高齢者が「介護老人保健施設(老健)」に移る場合、これまでリハビリ施設としての「老健」の医療・看護体制が比較的弱かったことから、医療関係者を中心に「老健では患者の受け入れが難しく、行き場のない介護難民が大量発生する」などの批判が、あいついで出されました。
そのため、厚生労働省は「介護老人保健施設(老健)」における医療・看護体制とその機能を強化する必要があるとの基本方針を(これは「転換老健」と称されています)示し、その一環として患者の受け入れ先の中核的存在として想定した「介護療養型老人保健施設(新型老健)」の制度を、その後新たにスタートさせました。
しかしながら現在、新型老健を含む「他の介護施設への転換」は、当初の想定どおり上手くいっているとは言い難い状況です。
(追記2~4で記した新たな施設も、こういった懸念を解決する現実的な妥協案として登場したと言えそうです。)
国は老健においては在宅復帰をできるだけ進めつつ、療養病床では重度者対応の機能強化に舵を切っていますが、法改正等を通じて問題を先送りしている感も拭えず、いまだ現実的な着地点を見出したとは言い難い状況です。
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