介護療養型老人保健施設(新型老健)。


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介護療養型老人保健施設新型老健)」とは、厚生労働省が進める「転換老健」政策の一環として、2008年5月にスタートした制度です。


厚生労働省は現在、医療費の抑制を大義名分として「療養病床の転換と削減」、そして「その受け皿となる施設への移行」を推し進めています。

療養病床については、介護保険施設(3)〔介護療養型医療施設〕。でご説明したように、2011年度末(2012年3月末)の期限こそ猶予されたものの、介護療養型医療施設(介護療養病床)の廃止医療保険型療養病床(医療療養病床)の大幅削減が、現在進行形で進められています。


老人医療費が無料化された1973年頃から、治療の必要性がさほど高くないにもかかわらず、家庭の事情などから「老人病院」等に入院する高齢者の数が増え続けてきたことが、その背景にあります。

これらは「社会的入院」と呼ばれ、これを医療費高騰の温床と考えた厚生労働省はその解消をはかるべく、「療養病床の再編」を期限を設定して推進してきました。

ただし問題となるのが、廃止・削減されたそれらの療養病床を出される患者が、医療・介護難民とならぬよう、たどり着くための「受け皿」となる施設の整備です。

医療の必要性が高い人は「医療保険型療養病床(医療療養病床)」へ、それほど医療の必要性が高くない人は「有料老人ホーム」や「ケアハウス」などへ移ってもらうか、あるいは自宅に戻ってもらい、家族には訪問介護サービスなどを使って対応してほしい、というのが国の思惑のようです。


しかしながら、医療保険型療養病床(医療療養病床)も削減の方向であることを考え合わせれば、それだけでは受け入れ先の数がまったくもって足りないことは明らかです。

あるアンケート調査によれば、介護療養病床・医療療養病床の削減・撤廃によって自らの行き場を失う「医療・介護難民」の数は11万人に上るという試算もなされているほどで、その受け皿の整備が急務となっています。


受け皿としてのカバーを行うべく、「医療・看護の体制を強化した中核的な受け入れ施設」として厚生労働省が発足させたのが、この「介護療養型老人保健施設(新型老健)」になります(この「新型老健」に対して、これまでの介護老人保健施設(老健)は「従来型老健」と呼ばれています)。

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「介護療養型老人保健施設(新型老健)」の位置づけは、「介護老人保健施設(従来型老健)」と「介護療養型医療施設(介護療養病床)」のちょうど中間にあるイメージです。

(ちなみに「利用者側の自己負担額」においても、「介護老人保健施設(従来型老健)」よりは数%程度高くなり、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」よりは一割程度安くなるという、厚生労働省の試算モデルも示されました。)


「介護療養型医療施設(介護療養病床)」に比べて配置される医師の数は少なくなります(100床あたり医師配置が、3人→1人に減少)が、その一方で「看護職員の24時間配置を義務づけ」た点などは、「特養」や「従来型老健」よりも制度的に強化がはかられています。

また、介護保険の加算報酬で「みとり加算」を認めており、いわゆる「看取りまでできる施設」としての性格も、あわせ持っています。


「介護療養型老人保健施設(新型老健)」の設置基準をみると、たとえば現在の医療施設を多少改修した程度でも新型老健として対応できるように、部屋面積の基準を緩くしたり、エレベータの設置基準も当面転換前のものでOKとするなど、施設の転換がしやすくするための配慮もみられます。

しかし配置される医師の数を減らしたことから、介護報酬が従来の療養病床に比べ、2割程度低く抑えられる結果となっています。


この見通しどおりに推移するならば、経営する施設側にとっては減収幅が大きく、死活問題になりかねません。

また、かりに節減策として看護スタッフの人員削減などが行われた場合には、施設の入居者にとってはサービスの劣化につながりかねません。


このため、医療施設が介護療養型老人保健施設(新型老健)への転換を積極的にはかっていくかどうかについては、すでに多くの疑問の声が出されています。

制度発足後半年たった段階での調査では、新型老健への転換を検討している介護療養型医療施設(介護療養病床)は、全体の3割に満たない状況でした。

総収入の減少を不満とする病院の経営者らの相当数が、介護療養型老人保健施設(新型老健)への転換を行わない可能性も高く、この制度が定着するかどうかを危ぶむ声も少なくありません。

さらに配置される医師の数が少なくなることから、夜間における患者の容態急変時の対応がおろそかになる可能性なども指摘されています。


新型老健が全国的にどこまで普及するかは、引き続き今後の推移をみていく必要があるでしょう。

しかしながら、当初主要な受け皿として考えていたこの新型老健への転換が想定どおり進んでいない現状からして、療養病床の削減計画を見直さざるを得ないのではないか…という声も、少なくないようです。

2017年の改正介護保険法で新たに登場した「介護医療院」とのすみ分け等も、新型老健にとって今後の課題となりそうです。




【追記1(過去の施策)】
介護療養病床の廃止は、2011年度末(2012年3月末)を期限としての他施設への転換が間に合わないとして、廃止計画が2017年度末(2018年3月末)まで猶予されました。

また2012年4月から、「介護療養型医療施設(介護療養病床)」の新設は認められなくなりました

【追記2(過去の施策)】
2015年の介護報酬改定において、「医療ニーズの高い入所者」への対応を強化した「療養機能強化型」の介護療養型医療施設が、新たに設けられました。

介護療養型医療施設(介護療養病床)の廃止を謳う一方、重度者に手厚い医療を施すために新タイプの介護療養型を設ける必要もあるとして、国はこれを矛盾しないと考えていたようです。

【追記3(過去の施策)】
2016年1月、厚生労働省の有識者検討会は、医療療養病床・介護療養病床のうち約14万床を2017年度末(2018年3月末)までに廃止し、医療体制の整った「医療内包型」「医療外付型」の2種類の新施設を創る旨の報告書をまとめました(詳細は 介護保険施設(3)〔介護療養型医療施設〕。ご参照)。

「介護療養型医療施設(介護療養病床)」は予定どおり全廃し、「医療保険型療養病床(医療療養病床)」においては医療体制の整った新施設を選択肢に加えることで、病院側に転換のスピードアップを促す狙いだったようです。


【追記4】
上記(追記3)の流れを受け、2017年5月に一括法として成立した「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」の中の「改正介護保険法」に基づき(医療法も同時改正)、「介護医療院」が誕生することとなりました。

「介護医療院」の基本的な性格は「要介護者の長期療養のための医療、および日常生活上の世話(介護)を一体的に提供する施設」となります。

現状から察する限り、「病院の中で、リハビリ等も行いながら日々の(要介護)生活を営める施設」のイメージです。


この「介護医療院」は、全国にいまだ5.9万床(2016年3月現在)ある「介護療養病床」の主な転換先に位置づけられています。

介護医療院の利用要件や、施設基準等の詳細は、これから社会保障審議会・介護給付費分科会で議論される予定です。国がこれまで介護療養病床の転換先として進めてきた「新型老健」や既存の介護施設等とのすみ分けも、議論すべき課題となりそうです。

2018年3月末までの全廃予定で話が進められてきた「介護療養病床」ですが、今回の改正で(介護療養病床から介護医療院への)移行期間も考慮し、介護療養病床の廃止・転換期限を、2018年3月末からさらに「6年間延長」することになりました。

介護医療院については、介護保険施設(3)〔介護療養型医療施設〕。 もあわせてご参照ください。)



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