介護老人福祉施設(特養)、看取りの現状。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、以下「特養」)は施設の性格上80~90歳前後の持病を持った長期入所者が多く、家族も万一を想定し「施設での看取り」を期待するケースが少なくありません。
介護施設の退所者の行き先を調べた厚生労働省の調査によると、介護老人福祉施設(特養)に入所後そのまま亡くなった方の割合は72.7%(2013年)に達しています(平均在所日数は3.85年)。
しかし一般的な「終の棲家」としてのイメージとは異なり、必ずしもすべての特養が「看取り」を行ってくれるわけではありません。
2012年度の調査によれば、看取りを行っている特養は全体の7割程度と見られています。「看取りを行わない」と回答している特養も、1割弱あります。
看取りを行わない特養は、施設内で定められた手順にもとづき、入居者を病院に救急搬送するのが一般的です。
(なお特養が看取りを行わない理由としては、「夜勤の看護師が確保できない」「施設の職員だけでは、急変時の対応ができない」「病院との連携や、施設の看取り体制が整っていない」等がよく挙げられます。)
看取りを行っている特養の場合、入居者の容態が急変した折は、施設・家族・医師間で話し合い、本人・家族の意向に沿って、病院に搬送するかそのまま施設で看取りを行なうかを決めることになります。
介護報酬に「看取り介護加算」が導入された2006年頃から、特養での看取りが増え始めたとも言われます。終末期の入所者の看取りについて、一定の要件を満たした介護施設が受けられるのが、この「看取り介護加算」です。
看取りまで行なうか否かは、あくまでも施設側の方針にもとづいて決められます。したがって、入居側が本人の看取りまで希望する場合は、施設の看取りに対する方針、そして緊急時の手順がどうなっているかについて、入居前にきちんと確かめておく必要があります。
特養の医師はほとんどが嘱託医のため、非常時はまず看護師が医師の指示のもとで対応するケースが多くなります。
ただし特養では看護師の常駐が義務づけられているものの、実際は夜間~深夜帯に看護師が勤務している割合が非常に少なく、オンコール(急患時の担当として施設外で待機)で対応する施設が全体の9割以上となっています。
実際には夜間に入居者の容態が急変した折に、まず施設の担当職員がその日の担当看護師に連絡して、医療面の指示を仰ぐことになります。
病院で最期を迎える高齢者が8割以上と言われるこの日本で、適切な手順にもとづいて看取りまで対応する特養の数は、全国的にまだまだ不足しているのが現状でしょう。
平成27年4月施行の改正介護保険法で、国は特養への入所者基準を原則要介護3以上へと引き上げましたが、同タイミングで実施した介護報酬改定においても、「看取り介護加算」の点数を手厚くしました。
これからの特養を「重度者を中心に受け入れる、看取りまで総合的に行える施設」にしていくのが、国の政策的な方向ということです。
この「看取り介護加算」が認められるためには、施設側で看護師の配置や24時間連絡体制の確保といった「看取りに関する指針」を作成し、本人や家族の「同意書」を得なくてはなりません。
同意書を作った後も、施設側は本人の病状や状況の変化などの節目に応じて、必要な説明および本人・家族の意思確認を行わなければならないことになっています。
ちなみに同意書は、原則として「本人に」説明して、その判断を仰ぐべきものとされています。看取りの主体となるのはあくまで「本人」であるとの考え方が、根底にあるわけです。
看取りまでを行なう特養はこれまで横ばい状態が続いてきましたが、一方で「看取りに関する指針」を整備する特養が増えてきています。
介護報酬を通じた国の政策的誘導もあり、「看取りまで行なうのが特養」というスタンダードの確立がさらに期待されるところです。
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