「遠距離介護」、交通費問題とその対策。
地元に残した高齢の両親・片親を介護施設に見舞うべく帰省したり、あるいは突発的なSOSが発生して親の住む地元にひんぱんに戻らざるを得ない都市圏のサラリーマンにとって、いわゆる「遠距離介護にかかる交通費」は、その一回当たりの費用が高いことからして大変に頭の痛い問題となります。
交通機関別に見てみるとJRや長距離バスについては、介護を特定の対象とした割引サービスを実施しているところは無さそうです。
列車や長距離バスによる帰省の場合、回数券や他の割引制度の利用、あるいは金券ショップで少しでも安く購入するといった通常の手段を駆使して、割安チケットの購入をはかるより他に手がないのが現状のようです。
費用的にもっとも高くつくであろう航空料金については、大手航空会社は各社とも介護(帰省)割引を用意していますので、ここでご紹介しておきます。
現在、介護割引を導入しているのはJAL(日本航空)、ANA(全日空)、SNA(スカイネットアジア航空)、SFJ(スターフライヤー)といった航空会社で、1年間有効の介護パスを各航空会社が発行するかたちで、航空料金の割引が受けられるものです。
割引率や申請方法は航空会社で異なりますが、27~43%程度と、ケースによっては「特割」などに匹敵する高い割引率が繁忙期や当日予約でも適用されることから、遠距離介護で地元にひんぱんに帰省する方にとっては、とりわけ好評のようです。
利用者数も、前年比二桁のペースで伸びてきているそうです。ついでに記すとJAL・ANAにおいては、マイルも減額無しで付与されます。
割引率の高い各種の「早期予約割引」とうまく使い分けて併用しているヘビーユーザーの方も少なくない、とのことです。
ただし制度の悪用を防ぐため、いくつか手続き的な制限も設けられていて、割引人数を2人までとし、座席数も制限(JALのみ、人数および座席数の制限はなし)され、また介護される人は「二親等以内の親族」「夫・妻の兄弟姉妹の配偶者」までとその範囲も限定されています。またANAにおいては、介護認定が要支援の場合、割引パスが発行されません。
詳細については、以下の航空各社説明ページをご覧ください。
JAL(日本航空) 介護帰省割引
ANA(全日空) 介護割引
ソラシド エア(スカイネットアジア航空) 介護特別割引
SFJ(スターフライヤー) 介護割引運賃
これらの介護割引を利用する以外にも、利用頻度が多い場合、これら航空会社や鉄道各社の株主となることで、所定の株数に応じて適用される「株主優待割引」を活用している方もいます。
つまるところ知恵を絞って工夫し、少しでも割引率の高い交通機関チケットの入手と、交通手段の効率化をはかるしかないのが現状ですが、週末の地元往復という手段をもってしての遠距離介護をいつまでも続けられるかどうかについては、残念ながら疑問といわざるを得ません。
料金の格安な深夜長距離バスで地元と職場を往復するようなことを続けていると、長期的に体に疲れが溜まって健康を損ないかねませんし、仕事の能率も低下するため、勤務評価にも影響が及ぶことになるでしょう。
またサポートを続ける家族の負担も、見過ごせないものがあります。通う側の体力だって年々少しづつ落ちてきますし、また経済的にも、いつまでも現在費やしている金銭を捻出し続けることは難しいでしょう。
かりに東京から北海道・九州などに月二回の帰省を続けただけで、上に述べた航空会社の介護帰省割引を利用したとしても、往復の飛行機代だけで年に100万円前後かかります。もろもろの雑費や、たまのおみやげも含めると、追加費用も年間で十万円程度発生しているでしょう。
かといって「地元に適した転職先が無い」など、本人の努力だけではそう簡単に解決し難い問題もあることから、まずは「遠距離介護のあり方、そのやり方の見直し」をはかっていく必要があるでしょう。
介護する側としては、「現状においてできることをやる」スタンスで臨まざるを得ませんが、たとえば一回分の帰省費用を地域の有償ボランティアサービスの利用に充てるとか、あるいは数年先をみてもっと有効な別の使い途に回すほうが、介護を受ける当人にとっても望ましいかもしれません。
とある調査によれば、帰省費用を親から一部工面してもらっている子供も相当数いるようです。それならば帰省回数を調整して、親が元気なうちは会いにいく回数を多少減らし、実際に介護が発生してからの生活の質を上げることにお金を振り向ける、といった考え方もあり得るでしょう。
介護を受ける本人、そして帰省する側にとっても、ケースバイケースで考えていかざるを得ないこの「遠距離介護」の問題ですが、現状の交通費の使い方や費用配分を改めてもう一度洗い出し、自分の場合に適した解決の方向を模索してみてはいかがでしょうか。
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