「リバースモーゲージ」、仕組みと概要。
介護施設に入所した場合の介護費用の軽減策については、介護施設・介護サービス、利用時の負担軽減策を知っておく。いくつかご紹介しましたが、介護施設には入所せず、外部の介護サービスを受けながら自宅に住み続けたい…という場合も当然あります。
しかし年金だけでは生活資金として手一杯で、介護費用のねん出までは難しい。所有資産といえば、いま自分が住んでいるこの自宅のみ…。
このような場合に、いわば最後の手段とはなりますが、「不動産(自宅の土地)を担保にして資金を借り、死後に売却して清算する」という資金調達方法(リバースモーゲージ)があります。
ふつうお金を借りた場合は、段階的返済によって借入金額は少なくなっていきますが、最初に担保(モーゲージ)を設定して、その後は長生きするほどに借入金が増えていくという、通常の借金といわば逆(リバース)のかたちになることから、「リバース・モーゲージ」と呼ばれています(「逆住宅ローン」などと言う人もいます)。
実施主体がどこかによっても内容は多少異なりますが、リバースモーゲージには以下のものがあります。
・民間金融機関によるリバースモーゲージ
上で述べたとおり、土地を担保にして生活資金・介護資金を借りる金融商品です。
本人の死後、土地の売却処分などによって清算されます。資金の使い途を必ずしも介護施設への入居に限定せずに「使途自由」とする商品もあり、退職後の医療費や孫の教育資金等に使用する目的で利用する高齢者も少なくないようです。
主に民間(信託)銀行や住宅会社が、リバースモーゲージ商品を販売しています。取扱金融機関の数は全国で30程度とまだ小規模に留まるものの、介護人口の増大基調からその将来性が高いとして、リバースモーゲージを取り扱う民間金融機関の数は今後増えると見込まれています。
ただし担保にとった土地の資産価値の下落リスクもあるため、都市部など販売地域を限定したり、あるいは土地の評価がある程度確実に見込める場合にのみ販売するケースが多いようです。
建物の評価がほぼ無いと想定すると、土地の評価額が数百万程度では、現実的には商品の利用が困難かもしれません。
また借り手となる本人の側からみると、万一自分の存命中に借入残高が不動産の評価額いっぱいになってしまった場合、その後の借り入れができなくなるリスクもあります。
他にも民間のリバースモーゲージ商品は大半が変動金利型のため、金利が急上昇した時のリスクも考慮しておく必要があります。
このように仕組みの周知や、様々な商品リスクの整備がまだ発展途上であり、市場としての本格化はまだこれから…といったところです。
・不動産担保型生活資金
平成15年(2003年)からスタートしている「不動産担保型生活資金(旧「長期生活支援資金」。平成21年10月に名称変更)」をご存じでしょうか。
一言でいうと、こちらは「公的なリバースモーゲージ」です。すでに全国で約270件の実績(平成17年度)もあります。
生活福祉資金の概要について (厚生労働省)
実施するのは、都道府県に置かれる「社会福祉協議会」ですが、直接の申込・相談窓口は「市区町村の社会福祉協議会」となります。
【PDF】不動産担保型生活資金 貸付のごあんない(東京都社会福祉協議会)
借り入れ世帯は「原則65歳以上で、抵当権や賃借権などの設定がなされていない持ち家や土地(マンションは不可)に住む、市町村民税の非課税世帯程度の世帯」が対象、すなわち主として年金生活者が想定されています。
単身者が対象ではありますが、「35歳以上の配偶者、又は親(配偶者の親を含む)の同居は可」とされています。
なお推定相続人からは、連帯保証人一名を選任する必要があります。
また、相続する不動産の価値を使ってしまうことから、推定相続人全員の同意も必要となります。
貸付額は1ヶ月30万円以内で、利子は年3%か長期プライムレートのいずれか低い利率となります。
融資限度額は、建物・土地評価額の7割(評価額1,500万円程度)が上限となります。
償還期限は「借受人の死亡など貸付契約の終了時」となっており、すなわち本人が亡くなった後に、上記の連帯保証人あるいは相続人らが、担保となっていた自宅(土地)を売却し返済することになります。
同居の家族は原則として、その家に住み続けることができなくなる(ただし配偶者は、貸付を引き継ぐかたちで住み続けることができる場合もあり)ので、申請前の十分な検討が必要です。
・要保護世帯向け不動産担保型生活資金
「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」は、平成19年(2007年)からスタートしたばかりの制度です。
持ち家・土地を有する65歳以上の「生活保護受給者」が対象となります。
生活福祉資金貸付条件等一覧(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)(厚生労働省)
評価額が500万円以上ならば、その不動産を担保に生活支援資金の貸付を受けて、本人の死後に清算するものです。
ちなみに長期生活支援資金のように、連帯保証人をつける必要はありません。
前述の「不動産担保型生活資金」との違いは、対象が「生活保護受給者に限定」されている点です。
ただしこの制度を利用している間は、生活保護は適用されないこととなっています。
この制度がはじまったことにより、かえって生活保護を受けにくくなるとして批判する意見もあります。
現行の生活保護制度においては、一定以下の資産価値なら、自宅を所有したままで生活保護を受けることができるようになっています。
生活保護を受けていた高齢者の死後、相続人である子供らが自宅を相続できることから、資産があるにもかかわらず公的な生活保護サービスを受ける形になる点が、社会的批判を呼びました。
このような背景から、この制度は「生活保護費抑制の一環として」できたとも言われています。
対象となる世帯数もまだ全国で数千件程度と見込まれることから、今後どの程度活用されるかの判断には、当面時間がかかりそうです。
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