介護報酬のプラス改定・単価アップが、介護施設の利用者にもたらす影響。


2000年に介護保険制度が発足して以降、原則として3年ごとに見直すことになっている、介護事業者に支払われる「介護報酬」の3回目の改定が行われ、2009年度(2009年4月)から新報酬が適用されることが決まりました。

過去2回の改定においては、いずれも2%強引き下げられていたこの介護報酬、今回の改定においてはじめて、前回から3.0%の引き上げが行われる「プラス改定」となりました。

これは、介護施設などで働く人が低賃金・長時間労働を強いられ続け、このままでは介護業界に人がこなくなってしまうと懸念されている現在の状況を、職員の賃金アップなどの待遇改善によって、なんとか良くしていこうとする狙いがあるためです。


介護報酬」とは、介護サービスを提供する事業者側がサービスの対価として受け取る、事業者の売上にあたるものです。

よって介護報酬があがることは、事業者の経営業績の改善を意味するので、ひいてはそこで働く職員の待遇の改善にもつながるだろう…という狙いです。


現在、介護職の平均給与は月額20~24万円程度ですので、全産業平均の月額33万円と比べるとかなりの差が生じています。

もっとも、介護保険によるサービスを利用する側にとってみると、介護報酬が上がるということは、構造的には利用者の自己負担額の増加を意味します(ただし介護報酬の金額は、地域やサービスごとに市区町村で独自に設定した係数をかけて調整されているため、必ずしもストレートに利用者の自己負担額増加につながるようになっていませんが)

介護保険においては居宅サービス利用額の1割が、利用者の自己負担となっているためです。

ただしすべてのサービスにおいて単価がアップするのではなく、単価がアップしたサービスを利用した場合のみ、従来に比べて自己負担額が増えるかたちになります。


介護保険は国の制度ではありますが、自治体(市区町村)ごとの責任で運営しており、介護保険料も市区町村で異なっています。

この3年に1回行われる介護報酬の改定が、各自治体が介護保険料を決めていくベースとなっているわけです。

その介護保険料ですが全国平均ベースで月額約180円アップ、年間で約2,160円の負担増と試算されているようです。

しかし、いつもなら介護報酬の改定にあわせてアップするはずの「介護保険料」を、現状とほぼ同水準のまま据え置くか、剰余金を取り崩すなどして逆に引き下げる自治体もでてきているようです。

2008年から後期高齢者(長寿)医療制度がスタートしたこともあり、高齢者の負担が増す一方という今の状況に対して、政策的に配慮する自治体がいくつかでてきているのがその理由です。


今回の改定では、夜勤など負担の大きい業務を行う事業所で基準以上の人員を配置した場合や、あるいは介護福祉士などの有資格者や勤続年数の長い職員を多く配置している事業所に対して、介護報酬を上乗せすることになっています。

また、認知症対応型のグループホーム「地域密着型サービス」の概要。ご参照)で看取り(みとり)介護を行う場合などにおいても、一定の加算金額が介護報酬に上乗せされます。


介護サービスの価格は、全国基準として「●●単位」で表示するように定められています。
「1単位あたりの単価」=10円です。

今回の改定では、人件費が高くつく東京などの大都市圏にある事業所においての単価基準もまた、見直されています。

具体的には、「1単位あたりの単価=10円」にすでに上乗せしている金額をさらに引き上げる、いわゆる「単価アップ」が行われます。

たとえば、東京23区の訪問介護サービスにおいては、新基準では1単位が11.05円(現在は1単位10.72円)へと引き上げられます。


したがって、これらの人件費が高い地域や、人員配置が基準以上の介護施設において介護サービスを受けている利用者は、自己負担額が増えていく可能性が非常に高まることになります。

自己負担額がどれくらい増加するかは、事業所の所在地・利用するサービス、そしてその利用状況により異なるため一概には言えませんが、厚生労働省のモデルケースにおいては、月1,000円~3,500円程度の負担額アップ事例が示されています。


政府は、今回の介護報酬の3.0%アップによって、常勤職員80万人の給料の月2万円増、介護業界の人材10万人の確保という試算を提示しています。

しかし、過去2年減らしてきた分を元に戻した程度の上げ幅では、待遇改善というにはとても足りないとする批判が出されています。


また、今回の介護報酬増が、果たしてストレートに職員の給料アップにつながるかを疑問視する声も、根強くあります。

なぜなら、職員の給料はあくまで勤め先の介護施設側の判断によって決まってくるので、それらの施設が介護報酬のアップ分を人件費に回さず、過去に積み重なった施設の赤字補てんに使ってしまう可能性なども残されているからです(介護保険の制度的硬直性が、介護施設の利用者にもたらす問題を知る。ご参照)。

すでに「給与が一律で2万円アップすると期待されては困る」といった声が各方面であがっており、職員の待遇改善にストレートにつながるかどうかについて、外部チェックの必要性が指摘されています。

そのような懸念から、当初は介護施設の事業者に職員の給与水準を公表させる案もあったようですが、事業者サイドの反対もあり、最終的には「自主的な公表」を期待する線に落ち着きました。


さて、今回の介護報酬増の決定を、介護施設の利用者サイドとしてどうとらえるべきでしょうか。


利用者の立場からすれば、介護保険料や自己負担額がアップすることは確かに痛いですが、それでも長時間労働・低賃金イメージの強い介護業界の待遇改善が行われなければ、よい介護サービスを提供できる優れた人材も集まらず、介護業界が全国的に縮小の一途をたどる可能性が高まります。

そうなると、最終的に利用者が介護サービスそのものをなかなか利用できない、あるいはできたとしても質の低いサービスに甘んじなければならなくなる恐れもでてきます。


したがって、今回の介護報酬アップそのものは、スケール的にはまだまだ不十分であるにせよ、国が事態の改善をはかろうとして前向きに動いた結果であり、最終的に利用者にとってもプラスの方向に作用するものと考えておくべきでしょう。

 ただし、介護報酬のアップ分が、介護業界の改善にはっきりと効果をもたらす方向に使われているかどうかは、次の改定が行われるまでの3年間、利用者としてもよく注意し観察しておく必要はありそうです。



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